地上の試し13
あれは体が弱いが気の強い女だ。
昔、私がつい間がさして外に女を作った時など、
私がその女のところに行っている時に乗り込んできて
女と私を殴りたおして、
手切れ金を置いて私を連れ帰ったほどだった。
あれは資産家の一人娘で、
貧乏だった私の家の道場を手助けてくれた。
そして、道場の後を継いだ私に黙ってついてきてくれた。
親の反対を振り切って。色々と感謝はしているが、
残念な事に子供が出来なかった。
あれの体が弱いのが原因であろうか、
出来てもすぐ流れてしまうのだ。
私もあれも兄弟が居ない為、
このままでは道場が私の代で終わってしまう。
そこで、あれと二人で養子をもらうかという話をしていたころ、
用を足しに出掛けようと道場から外に出ようとした時、
ふと目に留まるものがあった。
粗末な布にくるまれた、
まだ臍の緒の取れていない
生まれたての赤子だった。
私は急いで、その赤子を抱いて家に戻った。
赤子を見て驚いているあれに
外に居た事を話すと、
あれは涙ぐみながら言った。
「私達で育てましょう。」
その赤子は着物も着せられておらず、
女の子だとわかってはいたが、
その子の夫となるものに後を継がせればよいと思い、
あれもそれで良いと言ったので、
私もその言葉に同意した。
その赤子には「詩緒」と名付けた。
詩緒はあれと私とで、実の子のように慈しんで育てた。
そして、利発で可愛らしい少女に育った。
小柄だが、空手の腕も達者で、申し分なく育った。
まだ、詩緒は自分が実の子ではないという事実を知らされていなかったが。
そんな折、とある話が耳に入った。
前に関係を持った女が亡くなったという事だ。
その女は、最後に私の名を口にした為、
それをわざわざ教えに来たものが居たのだ。
なんでも、女には息子がいたそうだ。
自分で育てる事が出来ず、
その子が小さいうちに人に預けたらしく、
行方がしれないという。
もし、無事に育っていれば二十歳くらいであろうと話していた。
私がその女のもとに通っていた時期と計算があう上、
そのころ私以外の男との付き合いはなかったと、
話を持ってきた者に言われた事から、
高い確率で私の子だと推測できた。
詩緒の事は当然可愛い。
だが、実の子が存在すると言われると、
あれに息子の存在を明かすのは気が引けるが、
息子として迎えたい。
そう思っても仕方の無い事ではないだろうか?
聞いたところによると、
息子と思しき人物は、
わかりやすい特徴を持っていた。
なんでも、
片手に漢字のような痣があり、
漢字の書かれた皮手袋を持っていたらしい。
その特徴を伝え、幾人か雇い、調べさせた。
すると程なく、該当する青年が見つかった。
その青年は、幼い頃に親戚にあずけられたが、
折が合わずにその家を出たと言う。
その上、なんでも腕が立つとか。
そこで私は妙案を思いついた。
詩緒の婿にその青年を迎えれば良いと。
詩緒の婿は腕の立つ人物を迎えるつもりでいたし、
この方法ならあれに知らせず
我が家にその青年を堂々と迎えることができる。
何処の馬の骨かわからぬ人間に詩緒を連れて行かれるより
よほど良い。
一石二鳥の考えだと思ったのだ。
問題は、
詩緒とその青年が結婚する意志を持ってくれなくては困る
と言う事だ。
あれは詩緒に無理強いしてまで
私が決めた男と一緒にさせたら
反対するだろう。
それになにより、
詩緒には好いた男と一緒になって欲しいものだ
とも思っている。
ではどうするか・・・。
そこで思いついたのがこの案だった。
その青年の腕が立つのを利用して、
護衛として詩緒と共に旅に出てもらうという案だ。
二人きりの旅。
青年は詩緒の事を護衛し、
詩緒はそんな青年の真摯な姿に心打たれ、
旅を続けるうちに
徐々に二人の間にはある種の感情が芽生え始め、
強い絆を結んで二人は信頼しあって帰ってくるだろう。
私の育てた心優しい可愛らしい詩緒と、
私の血を引く腕の立つ青年。
きっと上手くいくと思えた。
なんと素晴らしい思いつきだろうか。
それから数日して、
私は、青年に接触し護衛を依頼した。
生活が大変そうだった青年に、
多少色をつけた金額を払ってしまったが、
青年は快く引き受けてくれた。
詩緒には、青年を旅の共とし、
道程を指定した上で、
お使いをしてくるように頼んだ。
詩緒も快く引き受けてくれた。
旅をするのは詩緒の勉強にもなるだろうと、
護衛を付ける事を言って、
あれも言いくるめた。
そして二人は旅立って行った。
二人が帰宅するのが今から楽しみだ。