地上の試し12
「お嬢様〜もう少し休んでから行きませんか?」
茶屋の椅子にべったりと座り込んだ
黒髪の目つきの悪い長身痩躯の青年天蛇は、
隣で椅子から腰を上げた小柄の可愛らしい少女詩緒に、
そう声を掛けた。
その言葉に詩緒は、天蛇の事を見ながら返答した。
「もう十分休んだでしょうが?もう行くわよ。」
「俺は象がふんずけても死にそうにも無いお嬢様と違って、
体の作りが繊細なのですから、
もう少し気をかけてくれるのが
人情ってもんじゃないですか?お嬢様?」
「そんな人情は持ち合わせてないわよ!
というか、象に踏みつけられたら死ぬっての!」
詩緒は天蛇に向かって怒鳴った後、
息を吸って吐いて落ち着いてから言葉を続けた。
「あんた、
私の護衛として
一緒に旅しているんじゃなかったっけ?」
「いえ、ですから悪い虫が付かない様にと、
お供しているだけなので、
むしろお嬢様の方が、
お供の俺の身の安全を保障すべきではないか
と思うのですが?」
「恋人か兄弟にでも見せかけて、
変な男が寄り付かないようにしている
って言いたいの?」
そんな詩緒の言葉に、
天蛇は心底心外だと言わんばかりに眉根を寄せて、
両手のひらを上に向けて
首を左右に振りながら言った。
「いいえ。
兄弟にはどう見ても見えないでしょうね?
なにせ、ちん・・・・・・小柄なお嬢様と、
長身の俺とは
似ても似つきませんから。」
「・・・・・今、私の事
ちんくしゃって言おうとしなかった?」
その言葉に、
天蛇は驚いたような表情を見せてから
心外とばかりに反論した。
「めっそうもございません!
俺はちんちくりんと言おうとしただけです!
でも、そうですか。
お嬢様はちんくしゃだと自覚があったのですね。
これからはちんくしゃお嬢様とお呼びして・・・」
「呼ぶなーーーー!!
というか、どっちも悪いわーーーー!!!」
そう叫びながら振り上げられた詩緒の回し蹴りを、
天蛇は座ったまま器用によけた。
詩緒はかわされたので、
それ以上攻撃するのは止めて、
脱力したように天蛇の隣に座った。
そう言えば先日から天蛇は休みたがる傾向にあった。
いや、働かないのは前からだが。
詩緒は、天蛇が言わないだけで、
どこか具合でも悪くしているのかもしれない。
と思い、
「・・・・何か相談したい事でもある?」
と聞いた。
こう言えば、体調が悪いとか何か不都合があるとか、
話すかと思ったのだ。
そんな詩緒の顔を暫し見てから、
天蛇は軽く頭を下げてから、
手を横にやり返答した。
「そうですね・・・・昨日から・・・。」
「手で確認済みなのは、ここだけなので、
たまには違うところを確認しても良いか
と聞いてみたかったですね・・・。」
詩緒は、真剣な顔をしながら撫で回す天蛇の手を
自分の尻から引き剥がし・・・
「良いわけあるかーーーー!!
触るなーーーーーー!!!」
いつもの如く、
天蛇に向かって怒鳴りつけるのであった。