地上の試し11


「・・・・ここは・・・?」

とある漁村にある民家の寝具の上で、
青年はそう声を上げてから、
その場に身を起こしたが、
怪我をしているのか痛みで呻き声をあげた。

先日、黒塗りの船に乗った青年である。

青年は、暫し考え込んでから
左右を見回していると、
一人の女性が部屋に入ってきた。

「あ、気がついたのね。良かった。」

「・・・ここはどこだ?
 ・・・船の上では無さそうだが・・・。」

心配そうに近寄ってきた女性に対し、
青年は突き放すような物言いで、
そう問いかけた。

「ここは漁村よ。
 ・・・あなたの乗っていた船は、
 ここの近海で難破したみたいで・・・。」

女性にそこまで言われて、青年は
ようやく何があったのかを、思い出した。

そのまま女性は
青年に状況を説明した。

先日乗り込んだ船が、
突然発生した落雷の直撃を受けて、
沈没したらしく

その時この漁村のそばに流れ着いたと言う事だ。

その事は容易に想像出来たので
さほど驚きはしなかったが、

倒れた帆柱の下敷きになって
重症を負った青年以外の者は、
沈没も、ものともせず、
皆かすり傷程度ですみ

青年を残して元気に
歩いて帰っていったという事までは
想像していなかったようで、

青年は多少驚いていたようだった。


とにかく、そこまで説明され
青年は怪我をした自分が
ここに居るということは、どういうことか
理解したようだった。

「では、貴女が介抱してくれていたのか
 ・・・ありがとう。」

そう言い、
軽く微笑んだ顔立ちの整った青年の顔を見て、
女性は顔を赤らめた。

「いえ、お礼なんてそんな
 ・・・・あ・・・あなたのお名前は・・・?」

そう問いかけた女性に、
青年は無愛想な表情に戻って、
一呼吸置いてから答えた。

「俺の名は、空也。・・・柳瀬空也だ。
 ・・・貴女の名は?」

「わ・・・私ですか?私は上村由美です。
 あ、これあなたが持っていた物です・・・。」

さらに赤くなって答え荷を渡した女性に対し、
空也は軽く頭を下げ、寝具から降りた。

「上村殿。世話になったな。
 ・・・・せめてもの礼を・・・・。」

そう言いながら、
何かを出そうと荷に手を入れながら、
自分の手を見つめ、
沈黙した。

それから、由美の方に向き直り、
右手を目の前に見せてから聞いた。

「右手に履いていた物を知らないか?」

「あ・・・それなら、随分傷んでいたようだし、
 片方しか無かったからいらないかと思って、
 捨てようかとそこに・・・。」

そう言い、
空也は、壁際の机の上を指差した由美の横を
素早く通り抜け、
それを手にした。

「柳瀬さんは、右手に変わった痣があるのね。
 その皮手袋も変わっていて・・・。」

空也は言いかけている由美の手に、
一握りの路銀を持たせてから、
皮手袋を装着した。

それから前に通った場所の説明をして、
その場所への行き方を聞いた。

「では、失礼する。」

空也はそう言い、そのまま出て行こうとした。

「そんな怪我で出て行くなんて!
 もう少し良くなるまで
 うちで休んで・・・」

由美は、そう声を掛け引き止めようとしたが、
空也は、黙って首を振り
怪我も治りきらぬまま、その家を後にした。

その後、
由美は、夕方帰ってきた母親に空也の話をした。
すると、母親は少し考えてからこう言った。

「昨日見かけた人、
 その人と同じような皮手袋していたけど、
 ・・・もしかして、
 その人探してたんじゃないのかい?
 その人達、南西の方角に向って行ったけど・・・」

「え、それじゃ逆の方向教えてしまったわ
 ・・・悪いことしたかしら・・・・。」

由美はそう言い、
空也に対し思いを馳せるのであった。


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