地上の試し10
「貴様・・・!!この間は、よくも謀ってくれたな・・・!」
海辺の村落の外れを歩いている二人組みに、そう声を掛けたのは、
数日前に詩緒に蹴り倒された、傭兵らしき男達である。
声を掛けられたのは、
鮮やかな足技が際立つ小柄な可愛らしい少女詩緒と、
その尻を触るのが日課になりつつある、
ぼさぼさ髪の青年天蛇の二人組みである。
「・・・・何の事?」
本気で何もわかっていない詩緒は、
小首を傾げながら、眉をひそめてそう言った。
男は、そう言う詩緒の方ではなく、
天蛇の方を指差し少々興奮気味に言った。
「お嬢さんではなく、そちらの男に言っているのだ!!」
そう言われ、詩緒は天蛇の方を、
何か言いたげに見上げたが、
天蛇はそ知らぬ顔をしてため息混じりに言った。
「何の事だか、俺にもわかりませんね。
この間のお嬢様の見事な蹴り技で
頭でも打たれたのではないですか?この人?」
そう言われた男は、
声を荒げて言葉を続けた。
「ごまかしても無駄だ!!
我々の主が所望の皮手袋は、
あんたが手にはめている物だと聞いてきたのだからな!!」
「あんたじゃなくて、俺には天蛇って立派な名前が、
お嬢様には立派な生活に必要不可欠な
調味料と同じ名前があるのだから、
名前で・・・・」
「誰の名前が調味料よ?
・・・・まぁ、今それは良いとして、
この包みじゃなくて、あんたのその皮手袋が、
この人たちが探しているものなの?
その奇妙な力を持っているとか言う・・・・・?」
そういう詩緒の言葉に、
天蛇は、心底疲れたような表情で返答をした。
「だから、このあいだも申し上げました通り、
そんな大層な物を俺が持っているわけが無いでしょうが?
なんなら・・・そこのあんた使ってみるか?」
そう言いながら、天蛇は
視線を詩緒から男に移動させてから、
左手の皮手袋を脱いで、男に投げ渡した。
男は、驚きつつもそれを受け取り、まじまじと眺めた。
「変な力があるって言うのなら、
今すぐ俺に見せて下さいよ。」
そう言われて、皮手袋を受け取った男は、
それをはいてみた。
「試せと言ったのは、天蛇とか言ったか?
お前の方だからな。後悔するなよ。」
それだけ言うと、男は気合十分な掛け声と共に、
皮手袋をはいた左手を虚空に掲げてみた。
詩緒と二人の男は固唾を呑んで、その様子を見守った。
そして、暫しの沈黙が流れた。
が、結局何も起こらなかった。
「だから言ったでしょう?そんな力なんて無いって。
お嬢様にも納得いただけたでしょう?
それじゃぁ、返してくださいよ。それ。」
そう言い手を伸ばした天蛇に対し、
男は首を振ってから言った。
「いや、調べるために持ち帰ることにする。」
「お嬢様。あの男、あんな事言っていますよ?
ここは一つお嬢様のために忙しい時間を引き裂いてまで
御供している俺のために取り返してくれませんか?」
天蛇は詩緒の方に振り向き
悲しそうな表情をしてそう言った。
「拾ったものなんでしょ?
別にいいんじゃない?持って行っても。
私の包みを欲しいなら駄目だけど、
あんたの持ち物まで私の知った事ではないし。」
「ああ、なんと冷血漢なんだ。お嬢様は。
・・・あ、包み懐から地面に落ちていますよ。」
「・・・え?」
「あ!危ないお嬢様!!」
包みを拾おうと下を向いた詩緒は、
天蛇の声を聞くと同時に、
上からの衝撃により地面に倒れ付して気絶した。
上からの衝撃の主は、
当然・・・・・天蛇である。
「何をしているんだ!?」
男の驚きの声などお構いなく、
天蛇は小声で
「お嬢様が取り返してくれれば楽だったのになぁ・・・」
などと呟きながら、
詩緒に当てた手刀をゆっくり下ろした。
「さてと、それこそ痛い目を見たくなかったら、
返してもらえませんかね?それ。」
天蛇は口の端に笑みを作りながら、男に向ってそう言った。
それに対し男は嘲笑した。
「その強いお嬢さんを気絶させてしまってどうする気だ?
あんた一人で、われわれ三人から
この皮手袋を取り返せる気でいるのか?」
天蛇は、男に返す気が無いのを確認してから、
急に真面目な表情をして、
左手を掲げた。
天蛇の左手には、「雷」と読めなくも無い痣が浮かび上がっていた。
「我、雷の化身なり。・・・我が力の一部をここに示さん。」
天蛇がそう言うと、
天蛇の左手の周りの空間が歪み、
轟音と共に、辺り一帯が光に包まれた。
その日、晴天にもかかわらず、
海辺の村落の外れに無数の落雷が発生した。
その影響で、近海を航海していた船が1隻沈んだと言う。
「あれ・・・私どうして・・・・?」
海辺の村落から多少離れた街道で
天蛇に抱えられたまま気がついた詩緒は、
そう呟いた。
それに対し、天蛇は何故か小さく舌打ちをしてから、
詩緒を降ろした。
「お嬢様。あの男たち、
お嬢様が油断したのを見計らって、
お嬢様を気絶させて包みを奪おうとしたのですよ。
なんとか言いくるめて皮手袋も返してもらいましたが、
・・・大変だったんですよ?」
詩緒は、そんな天蛇の言葉に
何処か釈然としない物を感じたが・・・・。
「この軽い尻を生かして、
上手い具合によけないから、
こんな目にあうのですよ。お嬢様。」
「また!触るなって何回言ったらわかるの!
あんたは!!」
尻を触られた事によって、
上手くごまかされたことに詩緒が気付く事はなかった。