地上の試し9
「道を尋ねたいのだが・・・・。」
長い髪を、白い布でキッチリと束ねた、
実直そうな長身の美青年は、
海辺で網の手入れをしている漁師の老人に、そう声を掛けた。
先日、険しい表情で海を見つめていた青年である。
青年は老人に、元居た場所の説明をした。
すると、老人は心当たりでもあるのか、
青年に対して、返答をした。
「あれまー。ずいぶん遠くから来たんだなー。兄ちゃん。」
「知っているのか?」
そう聞き返した青年に対し、
老人は困ったような表情を見せてから、
頭を軽く掻いた。
「知ってるけんどさー
・・・歩いて行くには、ちょっと遠すぎるべなー。」
そう言われた青年は、
そんなに歩いただろうかと、少し考え込んだが、
再び尋ねた。
「遠くても構わないから、行く道を教えてくれ。」
そう言う青年に、
老人は、どう教えるか思案しているようだったが、
ふと、名案でも思いついたのか、
手をポンと叩いて明るい表情をして言った。
「そこに止まっている白い船あるべ?右の船。
今南に向って出発するんだけどさ、
それに乗って海路で行ったほうが、
陸路で行くよりよっぽど早く着くべな。
それさ乗って行け。
話せば、きっと乗せてくれるべ。」
「そうなのか。では、そうする。助言ありがとう。」
青年はそれだけ言うと、
軽く会釈してから、振り向き、
「左の船だな・・・」
と小さく呟いてから、
まっすぐに左の船に向って行った。
「あれまー。兄ちゃん。そっちに行ってどうするや・・・。」
と、老人が声を掛けた頃には、
青年はすでに左の船の持ち主らしき、
いかにも「海の男」という風情の人間に、
声を掛けていた。
「この船が南に向う船か?乗せて欲しいのだが、お願いできるか?」
「おう!南に行くぞ!
乗りたいなら構わないぜ!さっそく乗りな!!」
そう言われた青年は、礼を言ってから、
その黒塗りの頑丈そうな、
そこそこの大きさの船に乗り込んだ。
その様子を見ていた老人は、
呆然としながら呟いた。
「あの船はー・・・確かに南に行くけんどさぁ・・・・。」
乗ったそうそう出航してしまった船を、
なおも見つめつつ、
老人は言葉の続きを口にした。
「ありゃぁ・・・・外国に向う船だべや・・・・。」
老人はそう呟いたまま、船の去った海を暫く眺めていたのだった。