地上の試し7
「そいつが何か変なセリフをしゃべったかと思うと
突風が吹いてよ!
次の瞬間には吹き飛ばされていたんだよ!」
とある茶屋で、足や腕を骨折しているらしい柄の悪い男が、
その隣に居た女に話しかけていた。
その話しかけられた女は
「そんな馬鹿なことあるわけ無いでしょ?」
と言いたげに眉をひそめて話を聞いていた。
「その時にこの怪我を・・・・」
「その話本当か?」
男の言葉を遮るように、
茶屋の前を通りがかった一人の男がそう声を掛けた。
声を掛けた男は、長身で、
美男子と呼んでも差し支えないような整った顔立ちをしていた。
その黒髪は長く、自身の帯びる実直そうな雰囲気そのまま、
きっちりと白い布で束ねられていた。
異国の血でも混じっているのか、瞳の色は少々青みがかっていた。
「何、人の話に割り込んで・・・」
「俺の質問に答えろ。」
再び長身の男は柄の悪い男の言葉を遮り言った。
だが、今度は
殺気とも取れなくも無い怒気を孕んだ凄みを込めて言った。
その迫力に気おされる形で、
柄の悪い男は多少後ずさりしつつも質問に答えた。
「ここから東にある山道で会ったんだが・・・・」
「そうか。ありがとう。・・・・で、北はどっちだ?」
直接東がどちらか聞けばいいものを、
長身の男はそんな間の抜けた質問をしたが、
迫力に気おされている柄の悪い男は、それには突っ込まずに、
真面目に答えた。
「今、あんたの向いている方向が北だが・・・。」
そう言われた長身の男は、ふと考え込むようにして、
軽く左右を見回してから、ぼそりと呟いた。
「北を向いて左が東だから・・・」
「・・・おい、それ逆・・・・」
柄の悪い男がそう声を掛けるのも間に合わず、
長身の男は、まっすぐ西に向かって歩き出したのであった。
茶屋に残された柄の悪い男と、女は
半ば呆然としていたが、
ふと我に帰って、会話を始めた。
「あんた・・・教えてあげたら?」
「そんな義理までねぇよ。勝手に間違えたんだから放っておけよ。」
「ま・・・まぁ、そうだけどさ・・・。」
それだけ会話すると、
柄の悪い男と、女は長身の男の話はそこまでという風情で、
別の話をし始めていた。
その長身の男は、
右手に複雑な模様と文字が描かれた黒い皮手袋を着けていた。