地上の試し6

「お嬢様。これ買ってください。」

とある村落の家屋の横を通りがかった時のことである。


ぼさぼさの髪の長身痩躯の青年天蛇が、
とあるものに指をさし、おもむろにそう言った。
お嬢様と言われた可愛らしい少女詩緒は、
天蛇の指の先にあるものを確認してから、
訝しげな表情を浮かべて答えた。

「なんで私が、天蛇に物を買ってあげなくちゃいけないのよ?」

「無一文の俺に金を出させるのですか?
 必要経費として、雇っている俺に物を買ってやるのが
 人情ってものでしょう?」

「どういう人情よ?」

旅に出てから今まで、
路銀は詩緒が父親から持たされたお金から支払っているのである。
詩緒はそう言いながらも、
天蛇の示すそれが、必要経費に値するものなのかを考えた。

それは、長い紐であった。
これが何に必要なのか?
・・・もしかすると、最近よく山賊に会うし、
そいつらを縛り付けて役人に突き出すために必要なのかも知れない。
と思い、
念のため天蛇にこの紐の用途を尋ねた。
その問いに対して帰ってきた返事はこうだった。

「あれですよ。先日お嬢様が山賊にやられてしまった時に・・・」

天蛇は、自分が詩緒を気絶させたことは、
もちろん話していない。
巧みな話術で隙を作り、
山賊に倒された詩緒を担いで逃げたと伝えてある。
とにかく天蛇は話しを続ける。

「お嬢様に気を取られて、
 うっかり非常に大事なもの忘れてきてしまって。
 取りに行くのも面倒なので、
 俺の華麗なる職人技で、もう一度作ろうかなと。」

ここまで聞いて、
「一体、何の職人なのか?」
「大事なものなのに取りに行かないのか?」
「そんな簡単に作れるものが大事なものなのか?」
「取りに行くより作るほうが面倒なのではないのか?」
など、
突っ込みどころはたくさんあるのだが、
詩緒はこの事に突っ込んだ。

「大事なものって・・・・ハンモックが?」

その詩緒の言葉に、天蛇は驚愕の表情を見せた。
まるで天地がひっくり返ったかのような大げさな表情である。
天蛇は搾り出すかのような声で言った。

「お嬢様の足りない脳みその中に、
 『はんもっく』という単語が存在しえるなんて、
 世の中何が起こるかわからないものですね・・・」

「誰の脳みそが足りないのよ!
 ハンモックくらい知っています!!
 とにかく、そんな物のためにお金なんて出せないわよ!」

「そんな冷血漢だとは思いませんでしたよ。
 お嬢様のふところ具合からしたら、
 この様なもの微々たるものでしょうに
 ・・・・やむを得ませんね。
 これは俺のお金で買うとします。」

「持ってるのかい!!」

力の限り突っ込んだ詩緒に対し、
天蛇は毎度のごとく詩緒の尻を撫で回した。

「これは、貸しと言うことで、
 とりあえず利子はこれで勘弁して差し上げます。」

「触るなって言っているでしょが!!
 というか利子って何よ利子って!!」

そして今日も二人の口げんかの声が響き渡るのであった。


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