天の迎え


「なんで浮いているんだ?俺は・・・・」

自身が述べたとおり、
20代後半くらいの年齢の青年は宙に浮いていた。
それも一糸まとわぬ姿で。
眼下では、とあるアパートから
豪快に火の手が上がっていた。

当然辺りには人だかり。
サイレンもけたたましく鳴り響いており、
普段静かな住宅街は、騒々しくなっていた。

「えーと、確か酒を飲んで・・・・タバコ吸ってそれから・・・・
 ・・・どうしたっけ・・・?」

「うたた寝ってやつですね!!」

「やっぱり、そう思うか?
 てことは・・・・燃えまくっているのが
 俺の家だということから考えても・・・。」

「一つしか答えは無いですね!!」

「・・・たばこの不審火による火災で死んだか俺?」

「いやー、ご理解が早くて助かります!!」

青年は、よほど混乱していたのか、
ここまで会話をしてから
ようやく後ろに居る人物に気付いて振り向いた。
そこには、青年と同じく宙に浮いた、
女子高生らしき少女が居た。
ただし、セーラー服という衣装を着ているにもかかわらず、
その少女の背中には、羽が生えていた。

「お勤めごくろうさまでした〜!!」

清々しいくらいのさわやかさで、
羽の生えた少女は元気にそう言った。

青年は理解に苦しんだのか
頭を抱え込んでうなだれた。

そんな青年をそっちのけで、
少女は手帳を見ながら言葉を続けた。

「えーと、笹川秀和。
 生存時間27年2ヶ月22日と2時間2分2秒・・・
 あら2がたくさん。縁起がいいですね。
 あなたの死亡は確定しました。これからどうしますか?」

明るく死を宣告された青年は、
まだ死を実感していないようだが、
なかば呆然としながらも質問に答えていた。

「・・・どうするって・・・選択肢があるのか?
 というか、あんた何?
 俺を迎えに来た・・・天使とかいう奴?」

そう聞かれた少女は、
そこでようやく手にした手帳から眼を離し、
青年・・・秀和に目を向け暫し沈黙をした。

それから、ゆっくりと秀和の下腹部付近に指を刺し、
元気いっぱいに言った。

「とりあえず、服着てくださ〜い!気になりま〜す!!」

言われて秀和は自分が裸で居る事を思い出した。

「き・き・き・着ろって言われても!!」

そう言い、
慌てて大事なところを手で隠す秀和を見ながら、
少女は更にニッコリと笑顔を作りつつ、
秀和に助言した。

「魂は、なんか生前のイメージで出来ているらしいので、
 服を着ているイメージをしたら着た姿になりますよ!!」

そう言われ、秀和は目を閉じ、
言われた通り服を着た自分の姿を
イメージしてみた。

目を開けると秀和はスーツに身を包んだ姿になっていた。
それを確認してから少女は秀和の質問に答えた。

「私は鈴木美香。
 いわゆる天使とかって奴ですね!
 まだ死んでから1ヶ月しか経ってないですけど!」

秀和はそれを聞き、驚きの声を上げたが、
少女・・・美香は、またもや構わず話を続けた。

「え〜と、秀和さんが選べるのは、D、E、Fコースですね。
 どのコースをお好みですか?」

営業スマイルさながら、
感情のこもらないつくり笑顔を貼り付けたまま、
美香は秀和の返答を待った。
秀和は、何から問い詰めればよいのか迷って
言葉に詰まっているようだった。

美香はそれを悟ってかどうかはわからないが、
返事をそれ以上待たずにまた話し出した。

「秀和さんの徳の数はですね、大体平均値。
 なので、D、E、Fのコースから選ぶ事になるのですよ。
 あ、ちなみに私はDコースを選びました。」

「・・・・なんなんだ?そのコースってのは・・・・?」

いぶかしげな表情をして問いかける秀和に対し、
美香は手帳をなにやらペラペラとめくり、
一つ咳払いをしてから説明を始めた。

「え〜、死後どうするかを選べる制度があるのですよ。
 そのコースのことですよ。
 選べるコースは、生前に行った善行の数、
 いわゆる徳の数により変わるのです。
 それぞれの内容は・・・・えっと・・・・
 面倒なのでご自分で読んでください。
 あ、他のページ見ちゃ駄目ですよ?」

そう言い、美香は手帳を秀和の眼前に突きつけた。
そこにはこう書いてあった。

 

 

Dコース
    天界の手伝いをする事によって、徳の数を増やす事が出来ます。
     (詳しくは72ページ天使の仕事参照)

Eコース
    死後の徳を積まずにこのまま転生。
    生前に積んだ徳相応の身分に転生出来ます
     (詳しくは85ページ転生後の身分について参照)

Fコース
    このまま幽霊となってさまよう。
     (この場合徳を減らす事になるため、
         これより下のコースも選択可能になります。)

 

 

ひとしきり読んだあと、秀和は美香に質問をした。

「天使って・・・・もと人間なのか・・・?」

「呼びやすいように、天使とはなってますが、
 臨時の魂の導き手ですかね?
 本物は別に居るみたいですし。
 よく考えて下さいよ毎日何人死んでいると思います?
 あきらかに天使の方が少ないらしいですよ?
 人手不足なのですよ。

 ですから、臨時で雇った仮天使?見たいな物として、
 死者を使って死んだ魂に説明とかしているらしいですよ?
 難しい手続きとかは、本物の天使がやっているらしいです。」

そう言う美香の言葉に秀和は呆然としてから
暫し考え込んだが、
また質問をした。

「そのEコースっていうの?にしたら、
 どんな身分になるんだ?俺?」

秀和の質問に、なにやら呟きながら
美香は手帳を再びめくりだした。

「秀和さんの徳の数から言って、
 現在の秀和さんの生活水準よりも、
 少しばかり下になりますね。」

そう言われ、秀和は自分の今の
・・・生前の生活状況を思い浮かべた。

はっきり言って、ちょっと苦しい。

「・・・・・・・・Dコースとか言うのを、
 選ぼうかなぁ・・・・。」

そういう秀和に、
美香は再び感情のこもらない作り笑顔を向けて
にこやかに言った。

「ぅわかりました〜。笹川秀和さん天上に御案内〜!」

 

そう告げた美香に手を引かれ、
秀和は天高く連れて行かれたのだった。

 

 

 

 

 

「・・・・・私・・・どうしたのかしら・・・・?」

空中にプカプカと浮かぶ
30代くらいの女性はそう呟いた。

「はい。お勤めご苦労さん!」

背後から不意にかかった声に振り返った女性は、
背中に羽を生やしたスーツ姿の男性を眼にした。

「相川園子。生存時間32年4ヶ月2日と1時間45秒。
 あなたの死亡は確定しました。」

驚く女性・・園子の様子などお構い無しに、
羽の生えた男性は手帳を片手に、話を続けた。

「あ〜・・・目のやり場に困るんで服着てくださいね。
 俺は、あなたの担当のいわゆる天使って奴で、
 笹川秀和って言います。よろしく。」

そう言って、スーツ姿に羽を生やすという
奇妙な格好の青年・・・秀和は、
さわやかに微笑んだのだった。

おわり。


小説トップへ戻ります